パーパス経営とは ― 日本人がもともと持っていた経営思想 ―
パーパス経営とは何か
最近、ビジネスの世界でよく聞く言葉に「パーパス経営」があります。
パーパス(Purpose)とは、
直訳すると「目的」や「存在意義」を意味します。
ざっくりといえば、パーパス経営とは、
「企業は何のために存在するのか」
という問いを中心に据えて経営を行う考え方です。
これまでの企業経営は、どちらかといえば
「利益」を中心に考える傾向がありました。
売上を伸ばし、利益を出し、会社を成長させる。
もちろんそれは企業にとって重要なことです。
しかし近年では、
それだけでは企業が長く続かないという考え方が強くなってきました。
そこで出てきたのがパーパス経営です。
パーパス経営では、まず最初に次のような問いを立てます。
-
私たちの会社は社会にどんな価値を提供しているのか
-
なぜこの会社は存在しているのか
-
この事業は社会にどんな意味があるのか
つまり
「利益のために事業をする」のではなく
「社会に価値を提供するために事業をする」
という順番になるのです。
そしてその結果として利益が生まれる、という考え方です。
この流れは2018年頃から世界的に注目され始めました。
世界最大級の投資会社ブラックロックのCEOラリー・フィンクが
「企業はパーパスを持たなければ長期的に成長できない」
と投資先企業に向けて発信したことがきっかけの一つとされています。
さらにSDGsの広まりや社会課題への関心の高まりによって、企業は
「何のために存在するのか」
を問われる時代になりました。
社員も顧客も、企業の理念や社会的な役割を重視するようになっています。
こうして「パーパス経営」は、いま世界中の企業で語られるテーマになりました。
しかし日本人の視点から見ると、この考え方にはどこか既視感があります。
それはなぜでしょうか。
答えは――論語にあります。
パーパス経営と論語の親和性
論語は、孔子の教えをまとめた書物です。
2500年以上前の思想ですが、その内容は驚くほど現代の経営に通じています。
論語の中心には「義」という考え方があります。
孔子はこう言いました。
「君子は義に喩り、小人は利に喩る」
これは
「立派な人は正しいことを基準に行動し、小さな人は利益で行動する」
という意味です。
つまり孔子は
義(正しさ)を先にし、利(利益)は後からついてくる
という順序を説いていました。
これはまさにパーパス経営の考え方と同じです。
パーパス経営でも
Purpose(社会的意義) → Profit(利益)
という順序になります。
利益を否定するわけではありません。
しかし利益だけを目的にすると、企業は長く続かない。
社会に価値を提供することを目的にしたとき、結果として利益が生まれる。
この順番が重要なのです。
さらに論語には「仁」という概念があります。
仁とは、人を思いやる心、人を大切にする精神のことです。
企業で考えれば、
-
顧客を大切にする
-
社員を大切にする
-
社会に役立つ
という姿勢にあたります。
つまり論語は
「人を大切にすることを中心に社会をつくる思想」
なのです。
パーパス経営も同じです。
企業は株主のためだけに存在するのではなく、
顧客、社員、社会などさまざまな人々に価値を提供する存在であると考えます。
そう考えると、パーパス経営は決して新しい思想ではありません。
むしろ、日本人が昔から大切にしてきた価値観に近いものだと言えるでしょう。
まとめ
日本には昔から「道徳と経済は両立する」という考え方がありました。
その代表が、近代日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一です。
渋沢は有名な著書『論語と算盤』の中でこう述べています。
商売は利益を生むものである。
しかし、その根底に道徳がなければ長く続くことはない。
論語の精神と算盤の計算、この二つは決して対立するものではなく、
本来は一致するものである。
つまり
道徳と経済は一体である
という考え方です。
現代の言葉で言えば、これはまさにパーパス経営です。
企業が社会の役に立つ事業を行い、人を大切にし、正しい道を歩んでいれば、
自然と信用が生まれます。
そして信用が生まれれば、人も資本も集まり、結果として利益も生まれる。
しかしもし利益だけを目的にしてしまえばどうなるでしょうか。
短期的には成功するかもしれません。
しかし社会からの信頼を失い、人も離れ、やがて企業は衰退していきます。
渋沢は企業のことを「社会の公器」と呼びました。
企業は私物ではなく、社会のための存在だという意味です。
企業は社会に価値を提供するために存在する。
その結果として利益が生まれる。
この順序を忘れてしまえば、経済は必ず歪んでいく。
しかし志を持って事業を行えば、
信用が生まれ、人が集まり、企業は長く続いていく。
パーパス経営とは、決して新しい流行ではありません。
それはむしろ、日本人が昔から大切にしてきた商いの精神を、
現代の言葉で言い直したものなのかもしれません。
そしていま改めて、私たちは問い直されているのです。
この事業は何のためにあるのか。
この会社は社会にどんな価値をもたらしているのか。
もしその答えが明確であるならば、
企業は必ず人から支持され、長く続いていくでしょう。
それこそが、論語の精神であり、渋沢栄一の思想であり、
そして現代のパーパス経営なのです。